2025年1月17日公開映画『敵』。
原作:筒井康隆
監督・脚本:吉田大八
2025年に観た映画の中で、いちばん印象に残っています。
本当は映画館で観たかったのですが、近場で上映がなく、
レンタルで鑑賞しました。
主人公は渡辺儀助。
77歳の元大学教授で、妻には20年前に先立たれています。
冒頭の彼の毎日のルーティンが、とても❝いい❞のです。
起床、朝食、歯磨き、洗濯、洗い物、掃除(古い日本家屋で廊下を箒で掃いてる)。
コーヒーは豆から挽いて丁寧に淹れ、書斎でパソコンを開き、メールをチェック。
朝はご飯を炊き、焼き魚や貰い物のハムを厚めに切ってハムエッグで食し、お茶碗に残ったご飯を昆布と杜仲茶でお茶漬けにする。
昼食は麺類、蕎麦多め。たまに辛い冷麺。
夜は晩酌を楽しむ。
持ち物や食に対するこだわりはかなり強く、
きちんとした生活を、きちんと維持しています。
お金が尽きたら死ぬつもりで、遺言書も書いています。
レベルを落とさず暮らしているところも含めて、
その日常がとても美しく、見ていて心地よいです。
たまに講演の依頼があり、
たまに元教え子が訪ねてくる。
元教え子・鷹司靖子には下心もあるし、
デザイナーの友人とバー『夜間飛行』に酒を飲みに行くこともある。
バーのオーナーの姪に話しかけられて、うっかり舞い上がってしまうところも、なんだか人間くさい。
——ここまでは、
静かで優雅で、ちょっと可笑しい、良い映画です。
けれど、
辛い韓国冷麺とキムチを食べて下血し、病院に行くあたりから、その「美しい日常」に、少しずつ不穏さが混じり始めます。
(激辛キムチを食べたことを、「年を取ったら若い頃よりセーブしないと…」と医者にとがめられます。私も辛いものは好物ですが、こんなことは言われたらかなしいだろうな…。)
夢なのか現実なのかわからない出来事が増え、
死んだはずの妻が帰ってきたりする。
妻と鷹司靖子らと何故か鍋を囲む。
妻に鷹司靖子への下心を責められる。
鷹司靖子に過去のあれこれは教授という立場を利用したハラスメントではないのかと冷たく言われる。
「そんなこと言わないでくれよ。いい思い出なのに」
「かわいそうに…。
って想像の私に言わせて安心してる。先生って本当に…」
このシーン、見てるだけでいたたまれない。
頼むからもうやめてあげて、
と思ったらベッドで目覚める儀助。
絶対夢だよねと思っていたけど、やっぱり夢なのです。
儀助の妄想です。
そして、
敵がくる。
後半は、
前半の優雅な生活すら、儀助の妄想だったのではと思えるほど、
カオスで、
不穏で、
境界が曖昧になります。
前半飯テロからのラストは、虚無。
でも、そこがとても良いのです。
この映画は、
優雅な日常が壊れていく話ではなく、
「そもそも日常とは何なのか」というところまで連れて行かれます。
そして、『敵』とはなんなのかというのも。
たぶん年齢によって新しい発見ができる映画です。
令和なのに白黒映画ってところも私は好きです。
映画館の大画面で観たい作品でした。